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2012年5月31日 読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/job/biz/qaetc/20120531-OYT8T00686.htm?from=navlk
ベンチャーがなぜロケットや宇宙船を打ち上げるの?
国際宇宙ステーションへの輸送事業や、宇宙観光事業への進出を目指しています。
今回、話題になった米国ベンチャー企業「スペースX」社は、自分たちでロケットと宇宙船を作りました。
打ち上げは無事成功し、宇宙船を国際宇宙ステーションにドッキングさせることもできました。
民間企業の宇宙船が、国際宇宙ステーションにドッキングしたのは初めてです。これまでドッキングしたことがあるのは、日本、ロシア、欧州の各宇宙機関が作った宇宙船でした。つまり国の事業。それを規模が小さいベンチャー企業が成し遂げたのですから、歴史に残る成果と言えるでしょう。
今回ドッキングした宇宙船は無人でした。
スペースX社ではこの宇宙船をさらに改良し、人が乗れるようにする予定です。
そうすれば今回のような荷物だけではなく、宇宙飛行士を国際宇宙ステーションへ送り届けることができます。
スペースX社では、7人乗りを目指しています。
米航空宇宙局(NASA)が開発し、昨年廃止したスペースシャトルの定員も7人。
ベンチャー企業の意欲や自信のほどがうかがえます。
米国ではほかにも、様々なベンチャー企業が、宇宙開発事業への取り組みを進めています。
例えば、インターネット通販「アマゾン・ドット・コム」の設立者、ジェフ・ベゾス氏が設立した「ブルー・オリジン」社は、ロケットと宇宙船を開発中です。
ホテル王のロバート・ビゲロー氏が設立した「ビゲロー・エアロスペース」社は、人間が滞在できる宇宙ホテルの建設を目指しています。すでに実験機も打ち上げています。ホテルへの輸送手段は、スペースX社が開発中のロケットと宇宙船を使う予定です。
スペースシャトルとよく似た宇宙往還機を開発中の「シエラ・ネバダ」社、繰り返し使える小型飛行機のような機体を開発中の「エックスコア・エアロスペース」社などいろいろあります。
ベンチャー企業が、こうした事業に乗り出す理由は幾つかあります。
まず、NASAがスポンサーになってくれる可能性があることです。
NASAは、国際宇宙ステーションへの輸送機を民間企業から調達する政策を進めています。
NASAの審査を通れば開発費を提供してくれます。
安くて良い輸送機が完成すれば、NASAが調達して使ってくれます。
ビジネス機会になるというわけです。
次いで、一般の人々向けの宇宙旅行事業への期待です。
国の宇宙機関が作ったロケットや宇宙船は価格が高いという問題があります。
これではビジネスチャンスもない。
ベンチャー企業の合理的な発想でロケットや宇宙船の価格を下げれば、旅行事業が実現する可能性があると見ています。
こうした取り組みを後押しているのは、米国の技術者の層の厚さと、ベンチャー企業を起こそうという精神です。
軍事利用の宇宙開発も含めると、米国は技術者の数も人材も豊富です。
人の流動性も高く、あちらこちらのベンチャー企業を渡り歩いて、自分の技術や能力を生かしています。
ベンチャー企業を起こそうという機運が強いことは、情報技術(IT)ベンチャー企業が米国で興隆したことからも明らかです。
ちなみに、ITベンチャー企業の代表格のマイクロソフト社の共同創業者であるポール・アレン氏も、衛星打ち上げ事業に取り組んでいます。
巨大航空機にロケットを搭載し、空中で衛星を打ち上げるという方式を目指しています。
地上からロケットで打ち上げるよりもコストが安くなるそうです。
一方、日本は、これまで人が乗ることができる宇宙輸送機を作った経験がありません。
日本の宇宙関係者は、開発費が巨大でリスクもあるので、政府が資金を投じて有人宇宙船とロケットの開発を進めるべきだと主張してきました。
しかし、米国のベンチャー企業の活躍ぶりが伝えられるにつけ、財政当局や一般の人々から
「ベンチャー企業ができることを、なぜ国がやる必要があるのか」
と迫られそうです。
米国の動き、日本の宇宙開発にもじわじわと影響してきそうです。
(編集委員 知野恵子)
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